コントラストの強さが映える女優の生きる道『アクトレス ~女たちの舞台~』×フランス映画祭2015


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永遠に輝くこと、それが彼女たちの使命
大女優の光と影を、圧倒的映像美とクラシック音楽で描く極上ドラマ

滅多に会うことの出来ない来日ゲストと、観客が直接質問投げかけて対話を楽しむことができる『フランス映画祭2015』。10月24日(土)公開『アクトレス ~女たちの舞台~』の先行上映に、オリヴィエ・アサイヤス監督が来日してトークショーが行われました。(2015年6月28日 フランス映画祭2015 有楽町朝日ホール)
(こちらもチェック→“アップ・サイド・タイム”で行きましょう 『アクトレス ~女たちの舞台~』レビュー)

Q:初めに、ご挨拶をお願い致します。
オリヴィエ監督:朝早い時間にも関わらず、来てくださったことを感謝しています。今回フランス映画祭で、日本公開前のプレミア上映をしていただいて、大変名誉に思っています。私にとって、こうした上映がとても特別な瞬間です。今までも私の作品が日本で紹介され、多くの方々から愛していただきました。今までもできる限り日本に来ようと努力して参りましたが、今回こうして呼んでいただいたことをとても嬉しく思います。
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Q:最近の監督のフィルモグラフィの豊かさには驚かされるばかりです。70年代のテロリストを描いた『カルロス (2010)』、68年の五月革命後の世代を描く青春映画『5月の後 (2012)』がありました。そして今回、全く違う女性映画を作られた訳ですけど、作ることに至った考えや経緯を教えてください。
オリヴィエ監督:この2本の作品『カルロス』と『5月の後』は、それぞれ形は違いますが、70年代を描くものでした。『カルロス』は広い意味での集団的な歴史を語り、それに対して『5月の後』は、より詩的でポエティックな視線を投げかけるものでした。そしてこの2本を撮った後、自分を新しくしたい、新しいものを作りたいという欲求が、必然的に私の中に生まれました。この2本を演出したことで、70年代という時代やその時代の人物について、自分が語りたかったことを言い終えたという感じがあったからです。また、ジュリエット・ビノシュと、一緒に何かをしたいという話を昔からしていました。この映画は、実に古いところにルーツを持っていますが、準備して具体化するためには、それだけの時間が必要だったのだと思います。私とジュリエット・ビノシュの、お互いにやりたいという気持ちから出来た作品です。

Q:脚本は、ジュリエット・ビノシュさんと一緒に書いたものなのでしょうか??
actress_06 オリヴィエ監督:それは違います。一緒に脚本を書いてはいませんが、ある日、彼女は私のところに電話をしてきて、「お互い知り合ってから、凄く長い。なぜ一緒に一度、仕事をしてみないのだろうか??」という風にいったのです。「私たちの間で交わされた話、2人の関係を反映するような映画を作ってみてはどうか」と、彼女から話がありました。それを聞いて、私も少し考えましたが、彼女のいうことは正しいと思いました。ジュリエット・ビノシュと私のフィルモグラフィに、ジュリエット・ビノシュ主演の私の監督作が一本欠けていると感じたのです。私たちは昔から知り合いで、共通点も多く持っています。まさにそこに、映画の材料があるのではないかと考えました。過ぎてしまった長い時間、そして過ぎていくこれから時間が、いかに私たちの中に染み込んで、私たちを変えていくか、そうした時間を語る映画が作れるのではないかと思ったのです。ジュリエットに「一緒に映画を作ろう。最後まで出来るかどうかわからないけど、脚本を書いてみる」と話をしました。脚本執筆中も、定期的に彼女に会って話を聞いたりしました。彼女の声を聞くことも必要でしたが、何をテーマにした脚本を書いているのか、彼女には全く話をしませんでした。どういう映画になるかは、脚本が書き上がった時に読んで初めて知ったのです。

Q:ずっと長らく監督の作品を撮ってきたエリック・ゴーティエさんではなく、ヨリック・ル・ソーさんにカメラマンが変わっていますが、どういった理由からでしょうか??
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オリヴィエ監督
:私は長きに渡って、3人の撮影監督とほとんど交代で仕事をしてきています。一番最初の仕事からたくさん一緒にしたのが、ドニ・ルノワールです。私の初長編から『カルロス』の半分まで彼が勤めています。『カルロス』の半分といったのは、とても長い映画 (326分) で、撮影監督も2名、録音技師も2名置いて、引き継ぎをしながら撮っていました。そして2人目の撮影監督が、エリック・ゴーティエです。『イルマ・ヴェップ (1996)』『5月の後』に至るまで、彼と仕事をしてきました。そして3人目がヨリック・ル・ソーで、彼は前の2人と比べるとキャリアが新しく、初めは2番目のカメラマンとして私の撮影に参加をしていました。初めて中心の撮影監督となったのが、アーシア・アルジェント主演の『レディ アサシン (2007)』です。また『カルロス』の半分を、ドニ・ルノワールと共に撮ってくれました。そして最新作『アクトレス ~女たちの舞台~』で、彼を起用しました。どの撮影監督を選ぶのか、はっきりと理由は説明出来ません。直感的に選んでいるように思います。恐らく今回においては、ドキュメンタリー的なトーンをひとつ入れたかったことから、ヨリック・ル・ソーの持っている自信やスピード感、自由さを重視して彼を選んだのではないかと思います。もちろんエリック・ゴーティエともよく話をしていて、次回作は一緒にやろうといっています。
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Q:全体的に暗く、雪の山や雲など灰色がかっていて、とても重い色彩の映画に感じたのですが、そういった意図があったのでしょうか??
オリヴィエ監督:私としては、暗い色調にする気は全くありませんでした。物語の始まりは夜のシーンなので暗いのは当然で、室内なので色調は暖かく濃い色になっているかもしれません。けれども第一部のチューリッヒの部分が終わって、山荘に行った途端に明るく光溢れるものにしようと思って私は作りました。私たちの撮影条件において、太陽がより輝いてくれるのを、何日も何日も待つことは出来ません。映画作りはいつも気象条件に依存しています。なるべく明るい光が捉えられるように撮影をしてきました。私の最近の映画は、薄暗さよりもむしろ明るさを求めて、はっきりと映像が読み取れるものになるように心がけています。特に自然を撮る時はそうしています。

Q:マネージャー役のクリステン・スチュワートさんは、どちらかというとアイドル女優的な扱いを受けてこられたことが多いのかと思ったのですが、この作品で演技派に脱皮したなと感じました。彼女を起用するに至った過程などを、お聞かせいただければ嬉しいです。
actress_08 オリヴィエ監督:彼女は確かに『トワイライト (2008~)』シリーズの成功と、メディアによって有名になったと自覚をしているかもしれません。けれども私が思う彼女は、映画において実にユニークで独特な存在感を持つ女性だと思っていました。彼女をみたのは、ショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド (2007)』で、5分しかその映画に出ていないのです。けれども映画館を出た後も、彼女のことが忘れられないくらい存在感を示していました。また、素晴らしいカメラ映りの良さを持っています。映像の中の彼女は、とても強くも深さもある存在にみえます。いずれにしても私は、アメリカ映画の女優としてはとても珍しい特異な存在だと思っていました。今回の作品に出演受諾をしてくれたことを、とても幸福に思っています。彼女自身、とても多大なリスクを冒して受諾してくれたのです。ヨーロッパのインディペンデントな映画で、普段彼女が慣れているような制作状況や報酬、心地の良さも全くないところです。しかし同時に、私は彼女に対してこれまで出演した映画がもたらさなかったものを与えてあげることが出来る気持ちがしていました。映画の登場人物ではなく、彼女自身を発揮する空間を与えてあげること。人工的に登場人物を作り出すのではなく、空間や自由を与えてあげること。そして彼女の自発的で自然なところを、より重視してあげられると私は考えたのです。そうした演技をすることで、彼女はある一点で、自分自身を発見して理解する。そうしたことが恐らく今後の助けになるのではないかと思いました。すなわち、自分で想像していたよりも女優としてのキャリアを、遠いところまで伸ばしていけるだろうと考えたのです。

Q:ジュリエット・ビノシュさんと、クリステン・スチュワートさんの相性は上手くいったのでしょうか??
actress_07オリヴィエ監督:本当にこの2人が上手くいくことが、この作品にとって重要なポイントでした。撮影が始まるまでの準備をしていた段階で、私はかなりの危険を冒しているという気持ちがありました。ジュリエット・ビノシュと、クリステン・スチュワートの気が合わなくて、2人の間に緊張が出来てしまったら、その場合、この映画はだめになるだろうと思っていたのです。それほど2人の関係に依存している映画を作ろうとしていることを、私は意識していました。脚本を書いていた時とは、全く異なる性質のものになったのは、この2人の関係の力動性のおかげです。2人は互いを評価し、互いに敬意を持っていました。クリステンにとってジュリエットは、全体を通じて、いつも自由と精神の独立を保ち続けてきた女優という風にみえていたようです。そういうことが出来るメカニズムを理解したい、ジュリエットが辿ってきたようなキャリアの工程を辿るには、どうすればいいか、ジュリエットから学びたいと思っていたようです。またジュリエットがクリステンの中に、すぐにみて取ったは、若い女の子ではあるけれど、自分と同じような映画に対する情熱と芸術的な要求の高さを持っている女優だということでした。2人の関係は大変バランスがよく取れて、お互いを刺激し合って、いい意味での競争心が働きました。この2人の関係が、この作品を支えてくれました。私はそばにいて、その2人を観察をして関係が進展していくのを、ドキュメンタリーのように撮影していただけです。

Q:音楽に関して今回、プライマル・スクリームの『コワルスキー (1997)』を、印象的なシーンで使われていたのですが、その意図を教えてください。
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オリヴィエ監督:この映画において、私の他の作品と全く違う音楽の使い方をしています。この映画では、全くロックや現代の音楽は出てきません。私はこの映画に、バロック音楽のトーンが必要だと思い、たくさん使いました。プライマル・スクリームの『コワルスキー』が使われているシーンは、この映画の他のシーンと全く違ったものになっています。それはこの映画の中に窓が開いて、ヴァレンティンの実人生の部分が覗かれるようなものです。カメラに映っていないフレームの外の部分が、突然にみえたというシーンになっているのです。なので、他の部分とかなり断絶があります。映画では語られないものを持っているということが垣間みられ、当惑をしてめまいがするような瞬間にもなっています。この曲はとても好きな曲で、既に他の作品でも使ったことがあります。そして今回も当然のように、この曲が開いた窓のこの場所にそうして収まってきました。そしてこのシーンが持っている性質を、見事にこの曲が表していると思い、最初の頃からこの曲を選んで、それがそのまま残りました。

Q:最後に一言、お願い致します。
オリヴィエ監督:観客のみなさんとお目にかかることは、本当に私にとって多大な喜びです。今日はお越しくださいまして本当にありがとうございます。この作品が気に入っていただけたら嬉しいです。そしてこの映画が公開された際には、日本の観客の方たちに愛していただけることを願っています。良い一日をお過ごしください。

取材:佐藤ありす

【STORY】
actress_09大女優として知られるマリアは、忠実なマネージャーのヴァレンティンとともに、二人三脚で日々の仕事に挑んでいた。そんな中、マリアは自身が世間に認められるきっかけとなった作品のリメイクをオファーされる。しかし、そのオファーは彼女が演じた若き美女の役柄ではなく、彼女に翻弄される中年上司の方。主人公役は、ハリウッドの大作映画で活躍する今をときめく若手女優だった…。

アクトレス ~女たちの舞台~
監督:オリヴィエ・アサイヤス
出演:ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ
配給:トランスフォーマー
© 2014 CG CINÉMA – PALLAS FILM – CAB PRODUCTIONS – VORTEX SUTRA – ARTE France Cinéma – ZDF/ARTE – ORANGE STUDIO – RTS RADIO TELEVISION SUISSE – SRG SSR
10月24日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!
特製エチケット・ミラー付き、前売り券も要チェック♪

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